City by Designという1回ごとに都市デザインプロジェクトを紹介するオムニバスの授業を今学期は必修として選択していた。この授業ではプロジェクトをデザインした人自身がGSDに来てプレゼンをしてくれるので、プロジェクトを進める際の地域住民との折衝の肌感覚というものまで伝わってきて面白い。
授業を選択した学生に対しては、その中から1つのプロジェクトを選び、分析をすることが課題となる。都市デザインプロジェクトというものは、土地の歴史や敷地周辺の文化などに大きく影響を受けるものだ。その背景を分析させることで、今後都市デザインプロジェクトに関わる学生の知識発達に役立てるという狙いなのだろう。
自分が選択した、というか選択が早いもの勝ちの残りものの中から選んだのが、テキサス州立大学のオースティン市にあるキャンパス(UTオースティン)に2017年に竣工した、新医療地区のプロジェクトである。大学が新しい医療地区を作るというのは、健康が重視される昨今では特に珍しくないことで、選択したかった人が少ないのも当然だろう。
最終課題がそのプロジェクト分析を5000wordsのレポートで提出するというちゃきちゃき文系の課題だったので、どうにかして書くネタを探し当てなければいけなかった。取っ掛かりとしては、オースティン市には州議会と州立大学が近接して存在しているので、その2つの関係性がキーになるのではないかと予想した。
こういう時に頼りになるのが図書館だ。AustinやUniversityというキーワードで本を検索し、その本がある書架にいく。そうすると有り難いことに、そのトピックに関連する書籍が隣に置いてあるのが図書館だ。今回も横にあった本たちがのちのリサーチの大きな助けになった。やはり、自分が探しているものしか見つけられないWEBとは違う。
分析してわかったことは以下の通りだ。南北戦争終戦直後にオースティンができた時、テキサスにはすでにダラスやヒューストンといった大都市があった。オースティンはコロラド川流域の自然豊かな場所に、テキサスの父と言われるスティーブン・F・オースティンに因んで名付けられ建設された都市で、19世紀に州議会を置く都市、そして州立大学の本拠地を置く都市として立候補して、2つの存在を勝ち取ったものである。
この二つの公共機関の近接は「UTオースティンの学生は余暇に州政府の動き方や裁判の傍聴を楽しむことができる」という選挙時の謳い文句にあるように、都市の文化の醸成に独特の緊張感をもたらした。ゼロからの都市の建設は主に農場の奴隷だった黒人層によって行われた。1950年には黒人学生を入学拒否したことを巡っての裁判が行われ、UTオースティンは旧南部アメリカに属する公共機関として初めて黒人を受け入れることとなった。その後も市民運動によって黒人の権利獲得が漸進的に行われていった。
人種差別が撤廃された1960年代後半には、環境問題が市民運動の焦点なった。UTオースティンが1969年にキャンパスを拡張する際にウォラー川周辺の木々を切り倒した際には、市民が座り込みを行い、警察によって27人が逮捕される事態となった。その後、学長が新しい木の植林をプロモーションするなど、環境保護の意識がオースティンには浸透していくことになる。
2017年に開発が行われた医療地区では、ウォラー川周辺の植生の再生について綿密な設計が行われたり、シャーロットヴィルで起きた白人至上主義団体の事件に呼応して、リー将軍を初めとした南部アメリカを象徴する銅像の撤去が行われたりした。この人種差別や環境に対するUTオースティンの今の思想は、オースティン市が建設されてから様々な事件を経て醸成された精神がもたらしたものだと言える。
以上のひもといた歴史をグラフィック化したのが表題の絵である。これらは参考書籍から抽出した象徴的な瞬間をコラージュしたもので、それぞれの絵が歴史的に大きな意味があるものなので、時代の匂いが伝わる説得力のあるものを作ることができた。
今回はものすごい苦手意識を感じていた文系の課題(しかも英語。。)なのにも関わらず、幸運にもこの絵の力で高い点数をもらうことができた。歴史をひもとく絵を作るコラージュという手法は日本では一般的でないのだが、書籍の力というものがそのまま表現できる点が目からうろこである。
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