ボストンの環境建築巡り

年末には、大学の恩師である東京大学の前真之先生率いる視察団がボストンに来た。前先生は建築のサステイナビリティ、省エネルギー、パッシブデザインの専門家(http://maelab.arch.t.u-tokyo.ac.jp/)で、学生にデザインの実践とエンジニアリングの基礎を教えることのできる、日本の中でも数少ない研究室のうちの一つだ。

研究室がスタートした10年ほど前、日本の環境建築があまりにも虚構と建前に溢れていることに衝撃を受け、環境建築とは、未来に残すべき建築とは何かを考えるのが研究室のミッションだ。そのため、世界中のトップレベルの環境建築を巡り、各地の学者と意見交換を続けている。

世界の建築の文化はその気候とともにユニークに形成されている。ある地域で当然良いものとされているものが、ある地域では悪さをすることなんて日常茶飯事だ。各地の風土に基づいた実践を知ることで、日本においては何が良いのかを考え、フィードバックすることができる。

前先生の視察には以前サンフランシスコにおいて参加したことがあった。その時はUCバークレーに留学をしていた伊勢田さんにコーディネイトをしてもらい、ゼロエネルギー建築というテーマで建物を見学したり、建築家に設計手法を紹介してもらったりした。カリフォルニアが環境建築についてとても先進的なこともあり、日本に比べてかなり進んだ情報を手に入れることができた。

今回は自分がボストンの最新の環境建築を紹介するということで、責任がかなり重大なものに感じた。幸いなことに、環境設計が得意なPayetteにおいてインターンを行っていたので、そこでのコネクションを軸にして、計画を組むことにした。最終的には、色んなコネクションを最大限に活用することとなった。

最終的には、MITの環境系の教授陣2名のレクチャー、ボストンでエネルギーコンサルタントをしている日本人2名、建築事務所としてはSasaki, Payette, その設備コンサルタントのBR+A、ソフトウェア企業としてはAutodesk、Ladybug Toolsの訪問を行った。

面白いのは、現在世界中で殆どの事務所で使われているツールが、今回訪問した人たちの手によって開発されていることだ。Rhinocerosが世界のスタンダードになっていることは既に自明であるが、その環境シミュレーション・ツールであるLadybug ToolsとDIVAの開発者。BIMで世界最大のシェアを持つRevitの環境シミュレーション・ツールのinsight360の開発者。そういう人たちに話を聞くことはとても刺激的だ。

また、設計事務所の訪問も大きな成果があった。Payetteはインターンをして2ヶ月半働いたオフィスなのだが、外向けのプレゼンテーションを改めて聞くことによって、理解を深めることができた。

Payetteの省エネルギービルに対するアプローチはとてもシンプルだ。ビルの目標の省エネルギーを決めて、それを達成するためのディテールを詰めていく。自分たちの過去に取り組んだビルをサーモカメラで撮影し、設計時点でわかってなかった熱橋を発見して、次にやるプロジェクトに活かす。

そのような取り組みを真面目に続けることによって、Payetteが設計するビル全体のエネルギー消費を減らしていくという、とても真っ当なアプローチである。10年前に比べてPayetteの設計したビルのエネルギー消費が1/3に減ったグラフを見れば、素晴らしすぎてぐうの音も出ない。

環境建築の設計はもう世界中で成熟していて、もはや最新技術をショーケースするようなフィールドではなくなっていることを強く感じた。真っ当な目標を定めてそれを達成するように努力する。努力しているように見せるのではなく、しっかりとやる。前回の反省を次に活かす。

そんな当たり前のことの積み重ねが、他者との差を作り出す時代になってきたのかもしれない。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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