「機械の目」

今学期はGSDの建築・テクノロジーの准教授であるアンドリュー・ウィット(Andrew Witt)のMechatoronic Optics(機械の目)という授業を取っている。彼の授業が扱うのは、最近トレンドになっている、アルゴリズムやニュートラルネットワークによる画像分析と、それのデザインへの応用だ。

かなりホットな分野ということで、授業の履修はかなり人気があるが人数制限もあるため、キャンセル待ちで12番目というような状態だったが、なんとかねじ込んで履修することができた。

授業は「機械がどのように世界を知覚することができるか?」という大きなテーマに沿っているので、人がどのように世界をとらえようとしていたのかという話から、最先端のテクノロジーまで広範囲をカバーしている。

興味深いのが近代化以前や20世紀初期、中期の人々の取り組みだ。もちろん、古代の絵画や彫刻もその時代の人々の世界の知覚の仕方の表れではあるが、化学的な世界の知覚の表現が始まったのは地図だろう。ひとえに地図と言っても鳥の視点からのもの、衛星の視点からのもの、ひいては立面図をサーベイしたものなど様々なものがある。中でも目を引くのはネルソン卿のパノラマのように、まるで昨今の360度カメラのような視点で正確に作図されたものだ。

地図は「フラットな紙の上に描く」ことによって世界を再現する方法であるが、その情熱は建築空間にまで及んだ。イギリスのPavel Piasetkyはパノラマ状の絵をのロール(日本でいうところの絵巻物のようなもの)を回転させることによって、船や汽車での旅の風景を再現したし、Cycloramaと呼ばれる建物には、建物のインテリアの360度全面に壁画を描くことによって、ある土地の景色の中に没入したり、地球全体を総覧できる体験があった。

自分にとっては少し懐かしく感じる技術ではあるが、立体視(Stereoscophy)のためのドローイングや写真は、いかに立体情報を伝えるかという取り組みだった。右目視点で撮った写真と左目視点で撮った写真を並べて、それぞれの目でそれぞれを見ることによって、立体的なものとして目に見えてくる。赤と青で印刷して赤青の眼鏡をかけて見るものも同じ発想だ。立体視のドローイングを描くために開発された機械や、写真機の姿はアナログ時代を象徴するような複雑機構なので、とても魅力的だ。

このように世界の知覚、再現の手法の積み重ねが現在の最新テクノロジーであるニュートラルネットワークによる分析や、インタラクティブなアート、プロジェクションマッピング、VRなどの没入体験につながってきている。また、21世紀に入ってからその小型化、デジタル化のスピードは加速している。

これは単純にCPUやGPUの進化によるところが大きい。視覚的な情報というものは、分析、操作、変形、処理に時間がかかる。これがより小さく、より多くの機器でできるようになったことによって、多くのアーティスト・デザイナーが取り組むようになった。

次の記事では建築分野での適用可能性について述べたい。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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