キンベル美術館

3月中旬の春休み時期を利用して、テキサスの建築を見に行った。日本人にとってテキサスと言えば最も典型的な「アメリカ」の象徴のような場所だろう。こちらのテレビ番組でも、日本で言えば関西人同士で連帯感が生まれるように、テキサス出身と出演者が言えば何某かの連帯感が生まれているように見える。

テキサスはボストンからだと飛行機で4-5時間かかり、国内線としてはかなり長い部類に入る。娘が5ヶ月になり初めてのフライトだったが、それほど問題なくやり過ごすことができた。

到着地のダラス・フォートワース空港は、世界でも有数の大きさの空港だ。テキサスの中の大都市であるダラスとフォートワースのちょうど中間に位置している。もちろん、テキサスでの旅行では公共交通機関などに期待はできないので、レンタカーを3日間することにした。空港の外のレンタカーで借りると安いことは経験上わかっていたので、そこまでウーバーで移動してレンタカーを借りた。

空港からフォート・ワースまでは30分程度の道のりだ。テキサスはアメリカの石油会社の本拠地となっていて、そのオイルマネーによって多くのハイレベルな美術館が建設されているとのことだ。今回訪問したキンベル美術館もそのうちの一つである。

キンベル美術館はアメリカの著名建築家、ルイス・カーンが設計した名作のうちの一つだ。以前、ロサンゼルスの南のサンディエゴにあるソーク研究所もルイス・カーンによる設計だ。

美術館は頂点にトップライトが空いた半円状のヴォールトの連なりによって構成されている。平面上でそのヴォールトのストライプが切れたり、つながったりすることによって動線が解かれているという形式だ。

何よりも綺麗なのが光だ。トップライトの下に設けられた反射板に当たった光は、コンクリートのヴォールトに当たり、まるで滝のように流れ落ちていく。その断面形がとてもシンプルでありながら、巧みな平面計画によって、ヴォールトを横切ったり、それに沿って歩いたりと、いろいろな角度でその空間を体験できるので飽きることがない。

ルイス・カーンの建築の真髄はその心地よさだ。とにかくシンプルで、気持ちがよく快適で、明快でありながら飽きが来ない。何も足すことができないし、何も引くことのできない、過不足のない完璧な空間だ。

また、上記のトップライトの光のように、パッシブな環境技術が注目されがちであるが、その断面計画を見ると、ヴォールトとヴォールトの間にアクティブな電気・空調機器が収められていて、時代の変化に合わせてフレキシブルな設備更新が可能なことがわかる。

こういうバックボーンの計画がしっかりしているからこそ、表に見えてくるものがとても綺麗に整っていて、長く愛されながら使われているのだろう。

これ以外にもキンベル美術館の素晴らしい部分を挙げればいくらでもあるのだが、どうやっても書ききることはできない。ルイス・カーンの本質は、表から裏まで完璧に行き届いたデザインにあるのだと、再度実感した訪問だった。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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