万博が都市へ与える影響

今学期はずっとフォローしているGSDの教授であるJoan Busquestsのもとで、世界の万博の研究を行った。これは他の5人の学生とともに行っているものであり、過去170年間、40以上の都市にまたがって一個一個研究を積み上げたものである。

ワールドカップやオリンピックと同様に、万博は都市にとってとても大きなイベントだ。1970年で開かれた大阪万博が日本の国や国民に与えたインパクトは計り知れないものがある。

研究の目的は、万博が都市に与える影響を調査し、希望的には、良いもの、悪いものは何かを結論づけることだ。この研究は2018年の秋から始まったものであるが、自分は2019年の年始から参加した。

自分が担当したのは、ロンドン(1851,1862,1924,2000)・沖縄(1975)・つくば(1985)・アスタナ(2017)の6つである。それぞれの万博には異なるストーリーがある。

1851年のロンドン万博は世界初のイベントで、大きな建物の中に世界から集めた全てのものを一同に展示する、という手法を確立したものだ。1924年のロンドンのウェンブリー・大英帝国博は、第一次世界大戦以降に顕著となった大英帝国の没落を取り戻すため、現代の日本やアメリカが陥っている「火事場のナショナリズム」を擁して開催された。1975年の沖縄海洋博は、沖縄返還が決まり基地経済以外の沖縄経済の柱を観光とするため、そして日本初のリゾート・観光島を作るために行われた。1985年のつくば科学万博は、首都機能移転計画の中で、官民の研究開発拠点をつくばに移すことと、そしてその機運を高めるため。2017年のアスタナ万博は、2000年以降に作られたカザフスタンの新しい首都をモニュメント性を更に高めるため。

それぞれの都市・国がその時の国の直面する状況に応じて、全く違った思惑で、イベントのソフト・ハードがデザインされている。万博のその後を追いかけても面白い。

1851年のロンドン万博のために建てられたクリスタル・パレスはモジュラー式で建設・解体が容易にできる工業化された建物だったため、イベント後は郊外の都市に移設されて使われた。(その移転費用は万博時よりも大きな費用がかかったが。)1924年の大英帝国博でナショナリズム掲揚のパレードが行われたスタジアムは、今でもロンドンで最も重要なイベントが行われる場所だ。1975年の沖縄海洋博後は、しばらく万博記念公園以外の観光資源の開発がくすぶり続けていたが、1990年以降はついにその他の資源が育ち、日本を代表するリーゾートとして立場を確立する。

このように自分の担当した都市のストーリーに興味を持ち、学校内の発表でも語ることを続けていたら、Joanからチームで分析した全ての万博の、万博後のストーリーを分析するように依頼された。さすがに、上記のような深さで全ての万博を見るには無理があるので、もう少し全体的な分析をすることにした。

すると、ポスト万博のシナリオには5種類あることがわかった。(1)イベント前の敷地の状態に戻す(2)象徴的な建物を保存する(3)建物は殆ど残さず、新しく公園として整備する(4)建物を残したり、建て替えたり、追加して機能強化をする(5)完全解体して新しく全てを建て直すことである。

(2)(5)は19世紀から20世紀前半で主流、(4)は20世紀後半から最近まで最も主流なものだ。大きな投資を行うイベントなので(1)の戦略を取るものは珍しく、日本で一般的な(3)はもはや時代遅れな感がある。

また、ポスト万博のプログラムに関しても興味深い。スポーツなどのレジャーや、美術館などの文化施設の場所となるのが当初は一般的だったが、最近はカンファレンス会場や、ビジネスや住宅の場となるのが増えている。上記の(4)機能強化のシナリオと合わせると、万博語のシナリオはどんどん実利的になっていることがわかる。

美術館・レジャー施設・公園というアメニティも都市には重要なのだが、20世紀後半の世界の都市にはそういうものが既に整備されていると考えて良いだろう。そのため、未だ進み続けるグローバリゼーションに対応するための施設の強化が重視されているのだ。

どの万博が良い、どの万博が悪い、と何かを結論付けるのは難しいことであるが、単一の時代、単一のプログラム、単一のデザインのみで作られた都市空間ほどつまらないものはない。そのため建物の更新が頻繁に行われ、プログラムも多様なものが良いものだと言える。

そういう意味では1929年のバルセロナ万博のものが、文化施設、スポーツ施設、ビジネスの場、住宅商業がインテグレートされているので、万博としては良いのではないか。万博で建てられたものが全て未来永劫使われるというビジョンはありえない。何を残すべき、何は残さないべきを考慮したバランスが肝要だ。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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