フィリップ・エクゼター・ライブラリー

アメリカでまわったルイス・カーンによる建築のうち、最後に訪問したのが、このフィリップ・エクゼター・ライブラリーだった。これはアメリカ有数の名門私立高校であるフィリップ・エクゼター高校の図書館で、ボストンから車で1時間ほど北に走った位置にある。この高校は元アメリカ大統領のブッシュ親子も通ったほどで、年間の授業料はハーバード大学ぐらいの高価さだ。

この図書館は公共のものではなく私立学校のものなので、スケジュールが通常月曜から土曜までオープンとは言いつつも、色々な理由で不定期に閉館してしまう。一回目は、GSDの春休み期間中にそこに訪問しようとしたら、その高校も春休みで図書館も閉まっていて、中に入ることはできなかった。

一応、ライブラリー側も開館・閉館スケジュールの分かるカレンダーを公開しているのだが、それもあまり正確でないらしい。今回は、卒業式シーズンでイレギュラーなことが起こりやすい時期に訪問を目指したので、司書さんにメールをして、いつなら訪問できるかをしっかり打ち合わせて、やっと訪問することができた。

この建物が有名なのは、中央の吹き抜け空間だ。吹き抜けに面するバルコニーが円形のコンクリート壁で縁取られ、天井のX型のコンクリート梁にハイサイドライトの光が当たることによって、象徴性の高い意匠となっている。

ルイス・カーンに幾何学的なデザインをさせれば天才的なのだが、極めつけはそのシンプルな幾何学の中に、建築としての機能も無駄なく設計されていることだ。これは行かなければわからない。建物のコーナーにある階段室、エレベーター、設備シャフトには無駄はない。平面計画は中心から吹き抜け、バルコニー、書架、そして窓に面する閲覧室、といった形で、機能が「回」の字型に重層している。

素晴らしいのが窓に面した閲覧空間で、作り付けの勉強机とともにとても快適な空間となっている。コーナーの設備シャフト後ろには、打ち合わせや読書会ができるような小部屋が設えられていて、その外には屋外バルコニーもある。

1,2,3階にはメザニン階があり、外壁から少しセットバックした位置で床が止まって、下の窓際空間と吹き抜けを作っている。吹き抜け際にはまた作りつけの勉強机があり、人には見つからない位置で集中して作業ができるような場所だ。3階に行けば少し雰囲気がかわり、暖炉を囲むような空間や、少しリラックス度の高いソファーなどが置いてある。

英語の表現でよく隅々までというのを「evey corner」という言い方をするのだが、本当に文字通り幾何学的な構成で生まれた「every corner」をしっかりデザインしている。しかも全てが機能的で、快適で、的確だ。もうルイス・カーン先生の前ではひれ伏すしかない。

良く設計の密度がどうだこうだという評価があるが、目指すものはこのフィリップ・エクゼター・ライブラリーなのだろう。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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