週末にボストンの美術館めぐりをした。海外で最大の日本美術コレクションを持つと言われるボストン美術館は当然すごい。だが自分にとって印象的だったのは、そこから徒歩10分ぐらいの距離にある、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館だった。近年はレンゾ・ピアノによる増築で有名だが、美術館としてのスタイルが今まで見たこともないものだった。
美術館の名前の由来は、このコレクションを作り上げた人物の名前そのものである。資産家かつ目利きだったイザベラは、自分のコレクションの展示のための邸宅を建て、それが現在の美術館となっている。彼女が1924年に死去してから、今でも当時と変わらない配置で美術品が展示されている。
その展示のスタイルは異色だ。普通の美術館だと白い綺麗な部屋にきちんと分類されたアートが飾られるのが普通である。ここでは展示室は住宅のインテリアのようであり、建物の中心にある植物に溢れた中庭とヨーロッパ風の窓を通じて繋がっている。生活のための(とはいえ生活感は一切ないが)ソファやダイニングテーブル、箪笥などの家具と一緒に、あくまでインテリアの要素の一つとして名画が飾られているのだ。
美術館を隅から隅までまわると様々な大きさの、様々な機能の部屋に出会う。どれも一流の美術品で埋め尽くされ、日本の美術品も数点展示されていた。建物のデザインも美術品の配置も全てイザベラが監修したとのことで、これが本物のお金持ちの生活かというような印象である。
絵画に対する個人的な話になってしまうが、カトリックの教会や屏風絵などに見られるように、絵画というものは本来建物のインテリアの一部として作成されていたのだと思う。近代になるうちに、価値があるものが美術館で特別に保存され展示されるようになり、多くの人が普通の生活で絵に触れる機会というものが、徐々に美術館という絵を見るだけのための空間に限定されていったのかもしれない。そのスタイルが個人の生活に逆輸入される形で、家の中に絵を飾る時も、美術館を踏襲して白い壁に額縁に入れた絵を配置するのだろう。
イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館での美術品のあり方というものは、人の生活と家具と、絵画や彫刻と、壁や天井の装飾と、中庭等の外部空間が、全て有機的につながりあっている。その中で美術品が特別な存在としてピラミッドの頂点にあるわけではない。
こんな家で生活していれば、毎日新たな発見やインスピレーションがあるのだろう。ただ有名なものを所有して満足するのではなく、美術品のパワーを自分のものとできるような空間を作り上げたイザベラの力とその遺産は世界で唯一無二なものだ。アートと相互に働きかけ合い、つながれるような家や生活を、自分も今後少しでも実現できたら良いなと思う。
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