年末のメキシコ旅行の中で印象的だった建築がミチェル・ロイキンドによるシネティカ・ナシオナルだ。建物のプログラはいわゆる一般的なシネマコンプレックスで、レストランや本屋も併設している。
日本のシネコンはショッピングモールの中にあるのが普通で、建物として面白いということは特にない。映画館ごとに運営会社があり、それぞれのブランドイメージのもと内装も統一されている。
シネティカ・ナシオナルが特別なのは、映画の待合所や店と店となどのいわゆる共用部という空間が、全て半屋外になっているということだ。そこは三角格子の屋根で覆われていて、中心にはメインの動線や広場、ランドスケープが集約されている。その周りは、屋外型のシアターだったり、オフィスだったり、低層の住宅だったりが取り囲んでいる。
つまり、映画館全体が都市に完全にオープンになっているのだ。日本だとこんな劇場を運営してくれる会社などないだろう。シネマコンプレックスというとても現代的で効率的なプログラムが、半屋外の共用部を通じて都市や人の動きとしっかりと繋がっているのが異色なのだ。
新しくショッピングモールができたせいで地元の商店街に人が来なくなり、街に活力がなくなる。そして、都市の風景が大きな箱とそのまわりの駐車場だけというシナリオへまっしぐらというのは、日本でよくある話だ。ただ、普通の人が欲しいものが新しく快適なキラキラした場所で便利に購入できるのだから、そんな場所が人気が出るのは当然だ。
シネコンも同じように現代において集客力のある存在だ。そんな経済原理の塊をただ箱の中に入れるのではなく、都市の中に開いた形式にデザインし直すことによって、新しい都市の風景を作り出したことが、シネティカ・ナシオナルのすごいところだ。
という話をメキシコ人のクラスメイトのエデュアルドとオリビアにしたところ、予想もしない話を教えてくれた。ロイキンドはメキシコの建築技術では作れない複雑なものをいつも作ろうとして問題ばかり起すのでひどく嫌われているとのこと。シネティカ・ナシオナルも竣工当時は雨漏りがひどく、PCの複雑な舗装も質が悪すぎてめちゃくちゃになり、全面張り替えをした。などなど、ネガティブな意見ばかりで面白い。
それでも川島が指摘した点については良いと認めるとのことだった。今回は運良くベストな状態の時にで訪問ができたのかもしれない。いつ訪ねても良い建物というのはあまりないのだろう。新しいことを現実化することの壁は、いつでもどこでも高いものなのだ。
0コメント