ルイス・バラガンの自宅

ルイス・バラガンというのはメキシコを代表する建築家で、その自宅が世界遺産である。20世紀の邸宅が世界遺産となっている例は多いが、建築家の自宅そのものが世界遺産になっているのは珍しい気がする。

ルイス・バラガンはメキシコの気候に呼応した色使いと、自然との繋がりの作り方の名手である。鮮やかな青や黄色、ピンクやオレンジの色が家中にふんだんに使われているのだが、それが派手に見えるどころか、スッキリと見えてしまうのだからすごい。

ガイドさんによるとバラガンはなんと土木学科の出身であり、ほぼ独学で建築を学んだのだという。孤独を好む「嫌な人」だったらしく、バラガン邸に友人を招くことはかなり稀だった。その人となりを語るエピソードのほとんどが、当時邸宅で働いていたメイドさんによるものなのが面白い。

バラガンの好き嫌いの激しい性格と、自分が良いと思うものへの絶対的な自信、そして細部への徹底的なこだわりがこの家を形作っている。置いてあるオブジェクトやアートピースからはバラガンの好みがうかがい知れるし、家具のほとんどは一人のデザイナーによってデザインされたらしい。

階段や窓などの家の機能を構成する要素は、アートオブジェクトのようにデザインされている。あちらこちらに、敬虔なキリスト教徒であったバラガンの十字架へのオマージュが見える。十字に分割された窓は、閉めると十字架の光が漏れ出すだけでなく、それぞれの要素を開け閉めすることによって視線や換気の制御ができるようになっていて、機能性と宗教性を両立している。

一つのドアを見てみれば、ドアの開閉時それぞれでどのように見えるかということが考え抜かれている。それぞれの状況に合わせて壁がくり抜かれていたり、ドアの裏表が違う色で塗り分けられていたりする。照明を付けた時の影の出方に合わせてドアの位置が決まっているのにはすこし笑ってしまった。

バラガンぐらい物凄い才能があれば、その究極にプライベートなデザインでさえ一般の人を感動させるものになるのだろう。ミケランジェロとか、モーツアルトビートルズやドラゴンボールにも同じところがあるが、広く多くの人の中にある感情を揺さぶる力というものは一体どここから来るのだろうか。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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