世界のモダニズム建築の三大巨匠による三大住宅と呼ばれるものがある。シカゴで建築巡りをしていた時に、そのうちの一つであるミース・ファン・デル・ローエによるファンズワース邸を訪問した。三大住宅を訪問するはこれが初めてだ。
シカゴの病院に勤務する医師のエディス・ファンズワースのために作られた郊外の住宅で、ファンズワース嬢は川のほとりの自然の豊かな立地を、都会の喧騒から離れる場所として選択したようだ。今回も1時間半ほどのドライブで行くことができた。
ファンズワース嬢とミースは竣工時には建物の予算等を巡って仲違いしてしまい、ミースが竣工後にファンズワース邸に訪れたことは一回もない。ファンズワース嬢はミースがデザインした家具を使うことを拒否して暮らしていた。その後、大きな道路が住宅の近くに開通したことをきっかけに、住宅は売りに出された。
それを買い取ったのが英国貴族のアート収集家であるポロンボ卿だ。この人がミースのデザインした家具で家の中を設え、教科書の中で今見るような姿を作り出した。現在この家はアメリカの歴史遺産保存団体であるナショナル・トラストが所持し、見学の管理や運営を行っている。ポロンボ卿は他にも建築家の名作住宅をいくつか所持していて、建物の保存や見学に今も貢献しているとのことだ。
ファンズワース邸は饒舌なライトの作品とは対象的に、モダニズムのミニマリズムの側面を追求した住宅だ。鉄骨の柱によって床と屋根が支えられ、外壁は全てガラス張り、以上である。使われている素材は床にある大理石のトラバーチン、白く塗られた鉄骨と、外壁のガラス、そして建物のコアに使われているプリマベーラの木材のみ。非常にシンプルである。
眼の前にある川が氾濫することを周辺住民への聞き込みで知っていたため、ミースはそれを避けるように家を1.6m地面から浮かす判断をした。この運命的な敷地条件がファンズワース邸を軽やかで、シンプルで、純粋なものにしたのだろう。
トラバーチンのベージュの色、プリマベーラの明るい木の色、そして茶色を基調とした家具によるものがあるのだろう。構造体の白もどちらかと言えば暖色系に近く、それが空間のやわらかさを演出している。行った季節が良かったのかもしれないが、新緑の緑がちょうど生え揃ったような時期だったので、ガラスの外の光も、緑の色もとてもやわらかいものだった。
コア部分も複雑だ。外観と平面図上のシンプルさに気をとられていて、訪問するまで気づかなかったのだが、リビング側の壁の下部が大きくえぐれていて、暖炉のスペースとなっている。こういう部分も建物の印象に奥行きを与えている。
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