縮小する都市のゆくえ

今学期は都市計画の歴史と理論を扱う授業を選択した。理系出身の自分としては、こういう完全なる文系の歴史・理論の授業は初めてだったので、挑戦でもあった。

都市設計理論の最終レポートにおいては、今まで実現しなかった都市計画案について、なぜ実現しなかったのか論考を行うものだったので、自分は東大大野秀敏教授によるFiberCityを取り上げることとした。

FiberCityは人口減少社会の中での都市の縮小をどうデザインするかにフォーカスしたものである。GSDは発展途上国の都市発展のサポートやアイディア出しをすることが多いので、人口・都市の縮小による諸問題は議論されることが極めて少ない。

しかし、人口減少社会というのは先進国の中でも身近であり、アメリカでもいくつかの大都市で既に起こっている問題でもあるので、議論する価値のある問題ではないかと考えた。

大野先生によるFibercityのアイディアは、都市の中にできる空き地や、公共交通網からアクセスが悪い場所、そして首都高速道路などの自動車インフラを、戦略的に緑地化していくことによって、都市の居住性とエネルギー効率を高めようというものである。

FiberCityが実現しなかった理由は、その縮小・緑地化が、不動産の価値の上昇などの利益の創出につながらないのが根本的な問題だ。FiberCityのように「都市の中で建たない場所のデザイン」というのは、ニューヨークのセントラルパークなどのプロジェクトで行われてきた。しかし、プロジェクトの実現条件として常にあるのは、その公共空間のデザインによって周辺の不動産価値が上がるであるとか、資本主義社会における価値創出という側面である。

以上のことから、自分の論じた最終レポートの中では、FiberCityのような都市縮小のアイディアにどのような経済的な価値を付加できるかという点で議論を行った。

FiberCityの大きな目的は都市のインフラを縮小することによる都市活動の持続可能化である。簡単な方法としては、政府主導で人が住む場所を制限するということだ。しかし、もし実際に政府があるエリアの外側では新築の許可を出さないというようなことでもしたら、エリア内外の不動産価格が乱高下してしまうのは目に見えている。

そのため、考えられるシナリオとしては、ゼロエネルギー住宅やローカルな再生可能エネルギー網を普及させることによって、都市インフラをできるだけ脱中央集権化することが鍵だと考えた。そうすることで、将来日本の国力が弱って石油を他国から買えないようになり、中央集権的なインフラが維持できない時代になっても、都市や生活の質を持続させることにつながるだろう。

産業革命による社会の近代化が最も変えたのは、生活を支えるインフラが中央集権化されたことである。それを今後はなるべく再生エネルギー等でローカライズしていく。それが都市縮小時代における価値創出なのではないか。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

0コメント

  • 1000 / 1000