GSD2年目の特権として、授業の選択肢の多さがある。プログラムにもよるが、1年目は必修のスタジオや授業を取る必要があるので、選択の可能性があるのが1学期あたり1つぐらいしかないし、必修の授業と取りたい授業の時間が重なってしまえば、選択すらできないのが難点だ。
ということで、GSD2年目の秋学期には憧れでもあったMITメディア・ラボの授業を選択することができた。その中にいる大スターの教授、石井裕先生のラボが行うTangible Interface-"触れる"インターフェイスの授業だ。
Tangible Interfaceとは何か。今の世の中はiPhoneやVRグラス、PCのスクリーンに代表されるようにグラフィック・インターフェイス(GUI)に溢れている。
GUIの欠点はその操作に、PCのマウスにしてもゲームのコントローラーにしてもある程度のスキルが必要なことだ。また、多人数でのコラボレーションがし難い点もある。VRゲームなどはその極めつけで、プレイしている人が何を見ているのかも何を操作して、どんな感情を持っているかも外から見ても分からない。
その点、"触れる"インターフェイス(TUI)の良い点は、モノ自体に機能や情報を埋め込んでインターフェイスとして機能させることで、私たちの実在する世界そのものに影響を与えることができることだ。多人数のコラボレーションもより簡単になり、効果的になる。
言葉だけで説明してもピンと来ないと思われるので、下記が代表作のリンクだ。"触れる" Tangibleというコンセプト一つでここまで世界が広がるのかと思うほど、石井先生の研究室に所属する学生のクリエイティビティと天才性は物凄いものがある。
モノを形作るディスプレイ:https://tangible.media.mit.edu/project/inform/
上記を使った未来の家具:https://tangible.media.mit.edu/project/transform-as-dynamic-and-adaptive-furniture/
線状のモノの可能性:https://tangible.media.mit.edu/project/lineform/
"毛"に機能を与える:https://tangible.media.mit.edu/project/cilllia/
これらの技術がいきなり何の役に立つのかは分からないが、とにかくとてつもなく未来性を感じるのだ。
授業で与えられた課題は石井先生の研究室がやっているような、"触れる"インターフェイスを使ったプロジェクトをやることであった。チームを組んだのは電気系プログラミングが得意な学生、石井先生の研究室の学生、コンピューターサイエンスの学生、建築の学生と私であった。とてもバラエティに富んだスキルを持つチームだ。
課題では名刺の再発明を行った。名刺という物理的な存在はその価値を近年失っていて、初めて会った人と挨拶する際にはかなり重要である一方で、その後はスキャンして捨てられてしまうものだ。このプロジェクトでは、名刺交換後に一方が名刺をまた見た時に、もう一方の名刺が振動することによって、相手が自分に興味を持っているかどうかがわかるという提案をした。
実際の電気回路の設計から、動いて機能するモックアップまで作成し発表するプロセスは、自分には馴染みのない分野だったが、とても刺激的な経験であった。
特に勉強になったのは、プロジェクトをいかにビジョンするかというプロセスだ。技術的なところは全く無視して、ものがどういう風な情報を持てば、人の生活の何が変わるのかを徹底的に議論する。そしてそのもの自体を実際に作り、体験することによって、ものの持つ可能性をさらに広げ、議論する。最終的には、実装できていない機能も含めたモノの可能性・伸びしろのプレゼンテーションを行う。
建築の世界ではできていること、デザインしたものを重視したプレゼンテーションをするばかりであった。ビジョンで牽引することによって、アイディアを限界まで押し広げるやり方は、本気で見習わなければならない。そんな、デザイナーとしての基本的な心構えを叩き込まれた場でもあった。
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