自動運転車(Autonomous Vehicle)の作る未来都市

最近はテクノロジー系のメディアでは自動運転が常に話題だ。どこのメーカーが作ったものが実装されている、どこのメーカーが作ったものが事故を起こしたとか、そのようなものが多い。

そして、アメリカの都市デザインの分野では、自動運転車がどのように都市空間を変えるかが真剣に議論されている。なぜなら、交通手段の変化が過去に都市空間を変えてきた歴史があるからだ。馬車や水運から、鉄道と自動車へと変遷していた。特に自動車は街中にあふれ、高速道路の建設とともに、都市空間から土地を歩行者から奪い取ってしまった。

それなら自動運転車が本当に普及したらどうなるのか?ハーバードGSDの准教授に就任したばかりのAndres Sevtsukのレクチャーがとても的を得ているのでここに紹介したい。

まず、ベストケースシナリオは上の絵のように自動運転車によって輸送効率が上がり、車の量が減り、既存の道路は歩行者空間へと還元される。都市は車のものではなくなり、エネルギーも少なく緑が豊かな都市となる。一方でワーストケースシナリオは、次の絵のように自動運転車の効率を上げ、危険性を下げるために道路と歩行者の区別は明確にされ、屋外空間はさらに自動車のものになる。

それでは、どれくらいの確率でどちらのシナリオに行くのだろうか。場合分けしてみると、ベーストケース対ワーストケースで3対25となる。つまり、自動運転車という技術と慎重に付き合わない限り、都市空間は自動車のものになってしまうということだ。

Andresはその理由を自動運転車にまつわる"神話"を一つ一つ否定することによって説明していく。

神話1:自動運転車は道路上の交通量を減らす→完全自動運転車は現在マーケットにある車よりも高価なはずで、車を所有するよりもウーバーなどのTNCを使った方が安価になる。最近のデータが示すようにTNCが交通量を増やすことは実証されていて、自動運転車が普及しても交通量は上がる。

神話2:自動運転車は人が運転するより安全なので、道路空間はもっと歩行者フレンドリーになる→自動運転車は安全が第一のためスピードを落とすことになる。自動車会社は安全の確保と輸送の効率を優先するために、自動車が走る場所には歩行者が立ち入らないように、都市を作り変えていき、道路空間は自動車のためのものになる。

神話3:カーシェアリングがもっと普及する→ウーバーなどのTNCサービスでは、シェアサービスを使っているのは全体の20%しかない。多くの人が専用の車を注文するのが現実であるし、ウーバープールのようなシェアの状態では、3ストップ先までしか人は許容できないことがわかっている。

神話4:自動運転車は公共バスにとって革命となる。今までのような固定のルートではなく、フレキシブルなルートが可能になる→公共バスをフレキシブルなルートにした途端に、公共交通を使った場合にかかる時間が予測不可能になる。つまり、人々はそれを使わなくなる。

神話5:自動運転車が普及したときのために、道路脇には電気自動車の充電装置をもっと充実させるべき→自動運転車のオーナーがプライベートで持っておけば良いだけで、高価な自動運転車を所有できる人は限られるはず。

また、TNCサービスから現状得られている学びは以下の通りだ。悪い点としては、・バスや電車に比べて空間、輸送効率が悪い・道路の渋滞は悪化している・フレキシブルなルートは冗長である。良い点としては、・アプリでのパーソナライズされたインターフェイスはユーザーの満足度を上げている・効率的に到着できるのであれば、少し歩くのも許容できる。

以上を踏まえると、都市を歩行者のためにするためには、自動運転車は固定のルートの様々なサイズのバスとして、密なスケジュールで走らせる。そしてTNCサービスのように快適に目的地に着けるようなアプリを整備することによって、個人の車の所有を減らすというのが、ベストなシナリオと考えられる。

自動運転車が個人に普及していくことがもちろん自動車メーカーの目指すところで、今の一般の人達もそれを期待しているだろう。しかし、それが都市に及ぼす影響について考えている人はまだ少ない。

ワーストケースシナリオに行かないようにしなければならない。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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