トランプ政権の影

今年の夏、本当は卒業後に3ヶ月建築事務所でインターンをする予定だったのだが、現政権の影響で結局断念するという事態が起きた。

一体どういうこと?というのが多くの人の反応だろうが、ストーリーはこうだ。まず、今年の1月に大統領がメキシコとの国境に壁を建設するための予算の確保を主張して事態が紛糾し、1ヶ月公共機関が閉鎖するという事態が起きた。

その遅れをカバーするため、公共機関の労働力が再編成された。人員が削減されたところが、「アメリカ・ファースト」のトランプ政権が重きを置いていないところ、例えば外国人向けの労働ビザを発行する労働局だ。労働局の人員削減の影響で、ビザ申請から認可までの期間が大変伸びることになったのだ。

学生ビザでアメリカに来ていた人たちは、卒業したらOPTというプログラムを使って1年間~3年間の労働をする権利がある。しかし、もちろんそれにも労働ビザの申請のプロセスが必要だ。

OPTの申請には「労働開始日の3ヶ月前から申請できる」というルールがあり、去年2018年までは申請してから2ヶ月程度で認可が下りていてた。しかし今年2019年は人員削減の影響で認可に5ヶ月程度かかるようになってしまった。3ヶ月前からしか申請できないのに、5ヶ月かかるというのはなんとも理不尽なゲームだ。

しかもたちの悪いところは、OPTの申請期間中にアメリカ国外に行ってしまうと、申請の認可が下りるまでアメリカ国内に入国できないというルールだ。ほとんどの留学生は、卒業してから国外に旅行したり、里帰りしたりしてから働くようなスケジュールにするのだが、今年は上記のような影響でそれが不可能になってしまった。

そのため、5月頃にこの事態が明るみになってから、留学生たちは大混乱に陥った。飛行機のチケットが無駄になったりとか、予定日から働くことができなくなったり、引っ越しの予定が狂ったり、皆が通常6月中に済ませたいことの修正・キャンセルを余儀なくされたからだ。

自分のケースでは、インターンは6月初旬から開始、6月中に義弟の結婚式のためにソウルに行ったり、万博研究の発表でパリに行ったりする予定をしていた。それがこのビザ問題の影響で、インターンが可能なのが7月末以降、3週間ぐらいとなる見込みとなった。そこで得られるものと、上記の予定を天秤にかけ、早期帰国をした方がメリットが大きいと判断し、苦労して獲得したインターンのポジションを断念することとなった。

今まで、アメリカは世界中から才能を集めることによって発展してきた国だった。それが現政権によってアメリカ人学生の雇用を優先し、留学生に嫌がらせをする国に変わったのだ。大手建築事務所でも、ビザの問題から留学生を雇い止めたところまであるという。

トランプが再選されれば、この傾向はさらに強まることになる。アメリカはもう国の発展の根幹となっていた価値観を捨て、守りに入ってしまったのだ。アメリカの高度な教育で育てられた留学生は、これからアメリカからどんどん逃げ出して行くことになる。

現在のアメリカが発展した大きなきっかけは、ヨーロッパの優秀な人材が第二次世界大戦でヒトラー政権から逃れてアメリカに流入したことだとも言われる。今後、トランプ政権から逃れた才能が、他の国で新しいビジネスや価値観を作っていくだろう。アメリカはもう「アメリカン・ドリーム」を捨て、良い国ではなくなってしまった。最近は、医療価格が高騰し平均寿命が落ち始めているようだ。アメリカ帝国の崩壊は今後も止まらず、インスタグラムのように表面的な体の良さだけで中身のない存在になっていくだろう。

現政権の影というものが、このような形で自分に影響をもたらすとは、4年前の大統領選を眺めていた時には思いもよらなかった。日本が同じような道を辿らないように願うばかりだ。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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