オルムステッドの遺産

19世紀にアメリカで活躍したしたランドスケープ・アーキテクトがフレデリック・ロー・オルムステッドだ。世界で初めて「ランドスケープ・アーキテクト」を名乗った人で、信じられないほどの量の伝説的なプロジェクトを手掛けた人物である。日本の漫画界で言えば手塚治虫のような人で、「ランドスケープ・アーキテクトの父」とも称されている。

代表的なプロジェクトといえば、ニューヨークのセントラルパーク、カナダのナイアガラの滝の整備、カルフォルニアのヨセミテ国立公園、そしてボストンのエメラルドネックレスだ。どれをとっても国家的なプロジェクトばかりである。

例えばナイアガラの滝では、整備される前はその水力を利用した工場・人工物が目立った場所だったのを、それらを徹底的に移設したり一部壊したりすることで元の自然の景観を取り戻し、その上でナイアガラの滝を色々な角度で楽しめる場所を整備した。オルムステッドの整備の後も、ナイアガラの滝の電力利用は周辺地域にとって重要な課題で、景観の保護とエネルギー利用のバランスの試行錯誤が続いている。

僕が特に面白いと思ったプロジェクトはボストンにあるエメラルドネックレスだ。これはオルムステッドによって整備された連続するひとつながりの緑地帯のことを指す。敷地は元々干潟で、下水や工場排水によって汚染されていた。オルムステッドはその水質を改善させ、ゴミを除去し、周辺地域を洪水から守り、整備された公園、緑道、車道、下水道を全てインテグレートした緑地帯をデザインした。

都市機能を担保するとともに、あたかも元からそこにあった自然のように整備することで、周辺地域の健康向上までも見据えたプロジェクトだった。こんなハイレベルなプロジェクトが1880-90年代に行われたとは驚きである。エメラルドネックレスは100年以上経っても機能しているし、人々はそれが「人工物」であることをもはや忘れてしまっている。

実作が残した業績だけでもオルムステッドがランドスケープの父と呼ばれるのに十分だが、彼はしっかりと後進を育てることで社会に大きく貢献している。例えば、オルムステッドの息子はハーバード大にてアメリカ初のランドスケープ学科を設立した人だ。オルムステッドの存在のおかげで、ランドスケープ・アーキテクトという職能はアメリカでは深く根付いている。

一方で日本においてはランドスケープの学科で独立している大学は限られる。東大でも都市計画学科の中に、ランドスケープを教える先生がいたぐらいだ。所属している竹中でも、ランドスケープ部門に所属する殆どの人がアメリカやイギリスでランドスケープを学んでから入社している。

そのため日本では、ランドスケープは時に建物の付属物のように思われることがある。しかしランドスケープの達成できることは、オルムステッドのエメラルドネックレスのように、建物よりも限りなく大きい。こんな当たり前のこともアメリカに来る前は知らなかった。逆に言えば、日本のアニメが大好きな外国人でも、その源流である手塚治虫の名作に精通する人は少ないのかもしれない。

自分が無知だったのは、単純に日本語である情報が限られいたことも一つの要因だ。(あとは自分の不勉強さ。。。) GSDの環境では今まで知らなかった大事なことを学べるチャンスに満ち満ちている。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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