スタータ・センターはMITのコンピューターサイエンス分野の研究所で、ジムや食堂、幼稚園などの共有施設も備えた、10階建て40000㎡の建物で、地下には27000㎡の駐車場もある。写真を見れば想像がつく通り、というかこのデザインは世界でただ一人の建築家にしか許されてないのだが笑、建築家フランク・ゲーリーによって設計された施設だ。
スタータセンターに興味を持ったのは、英語の授業の最終課題がボストンで建物を一つ選んで、リサーチする課題だったことがきっかけだ。どうせリサーチを行うのなら、興味があるかつ一番理解ができないものをピックアップしたい、ということでこの建物を選んだ。
課題では建物の平面・断面スケッチをする必要があった。スケッチをしながら建物の前のベンチで過ごしていると、MITキャンパスツアーに参加しているだろう観光客のグループが頻繁に通り過ぎた。「この建物はすごい変な形をしていて、まるで地震で一回壊れたみたいな感じだけど…」というような話からいつも説明は始まっていた。その通り、スタータ・センターはとても特殊な形をしていて、ゲーリーでさえニューヨーク・タイムズの取材に対し「酔っ払ったロボットの宴会のようだ」とも語ったほどである。
そんな建物がなぜ実現できたのか、ということに興味があった。プロジェクトの記録の本「Building Stata」によれば、元々このプロジェクトはコンペだったらしい。最終候補として残ったのがゲーリー案ともう一つのオーセンティックな案で、実際そこで働く研究者と学長の間での協議の結果、ゲーリー案が選ばれた。ゲーリーがこの建物を「個々が独立して民主的なMITの研究風土を象徴している」と説明したこと、ゲーリー事務所での模型を使いながら空間を一歩ずつ検証していく実験的なプロセスが、MITの研究者のアプローチに通ずるところがあった、というのが勝因だ。
1階エントランスから建物の共用部に入ってみると、外観のように複雑なインテリアである一方で、動線やプログラムの配置がとても明快だ。1階中央通路である「ストューデント・ストリート」を歩けば、行きたい部屋はすぐ見つかるし、そこらじゅうで学生や研究者が作業やディスカッションをしていて面白い。
4,5階以上の研究室のフロアに入ると、雰囲気ががらりと変わる。廊下から見える部分はほとんどが直行直角でできていて、吸音率が高いためかとても静かで整然とした印象だ。一方で、個々の研究ブースが激しい形の外観の中にあるのだが、全ての学科のニーズに個別に対応しながら、窓から光を取り入れられる面積を最大化した結果、今の形になったのだという。
しっかりと勉強してみれば、建築主と建築家の関係も、建物そのものも見事なものだった。今回はたまたま課題として丹念にスケッチしたり、文献を調査したりしたので、スタータ・センターを深く理解することができたように思う。本当は、全ての建物に対して同じレベルの探求ができるのが理想なのだが、この前ニューヨークでやった7日間で40件のプロジェクトを巡るような旅行では不可能だ。ただ、なるべく自分にとってのスタータ・センターのような建物を、アメリカにいる間に増やさなければ勿体ない。
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