西へと向かう力

GSDのアーバンデザインの第4課題は、NY、シカゴ、LAにある決められた3つの敷地の中から1つを選択し、集合住宅を含むコンプレックスを設計することであった。設計は2人チームで行う決まりで、自分は清華大学出身の24才、ルーと組むことになった。ルーはとても強烈なキャラクターの持ち主だったので後記する。

自分たちはLAの敷地を選んだ。ヴェニスビーチの近くにある駐車場の敷地で、幅が50mで長さが300m以上のとても細長い形状である。周辺の街区のグリッドの中からどこか取り残されたような雰囲気が印象的だった。

古い航空写真や地図から歴史を紐解いてみると、20世紀初頭には鉄道のレールとして周囲の街区を切り開くような形で敷設が行われた場所だった。その後、車が普及し列車の必要性がなくなることで、レールのあった敷地は徐々に周辺街区のグリッドの中に吸収されていったのだが、課題の敷地だけ公私の権利関係が複雑でなんとなく今日まで取り残されてきたようだ。

「西へと向かう力」というのがこの敷地のキーワードだった。言わずと知れた西部開拓時代のように、アメリカでは西へ西へと人と経済の波が押し寄せた歴史がある。ロサンゼルスはその終着点として最大の都市であり、ヴェニスビーチの海外線はレジャー・文化・経済の核として発達した。

西の終着点としての太平洋の海岸線は、全てが良い場所として開発されたわけではない。「西へと向かう力」や経済的なニーズに沿って開発された挙句、石油を抽出する油田であったり、ビューを独り占めにするホテルであったり、ビーチのための駐車場であったりで、ビーチという最高の公共空間はいつも少し閉ざされた場所になってしまっていた。この歴史を正すような設計をするのがチームの目標となった。

そこで考えたのが、LAの中心部直通の幹線道路が一方に面する大都市スケールと、反対側には高級住宅街が面するローカルスケールのキャラクターを利用し、この二つを敷地の中でうまく融合することだった。これがデザインできれば、この土地の歴史に対して回答し得る、「西へと向かう力」とビーチという公共空間を仲裁するような案になると考え、設計のスタディを始めた。

最終的に辿りついたのは、様々なニーズを受け止める大小のオープンスペースをグラデーション状に連続させ、そこをある時は駐車場として、ある時は催し物の場所として使うという提案だった。ロサンゼルスの生活には欠かせない、そして文化の核でもある車社会というものを継承し、車で乗り付けた人々を敷地の中で起こる商業・文化のアクティビティの着火剤にするものである。オープンスペースにはギャラリーやアトリエ、コワーキングスペースが面し、アクティビティを受け止める礎となる。

オープンスペースの中でも大きいものは公共的な性格が強く、小さいものはプライベートな性格が強い。集合住宅のユニットは最低でも2種類のオープンスペースに面することで、街の文化と繋がったセミプライベートな生活と、従来のプライベートな生活両方を楽しめる場所とした。

これに加え、文化施設の核として用意した図書館は、見晴台のあるタワーを併設し、その上から敷地全体とロサンゼルスの象徴でもある夕日と海の景色を楽しめるような場所とした。そのように少し余剰な空間を付け加えることで、ロサンゼルスの歴史や文化というものを体現するデザインを目指した。

12月6日のプレゼンテーションではこのような内容を説明し、かなりの好評を得ることができき、最初の学期としてとても思い出深い案になった。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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