ルーというチームメイト

設計スタジオの最終課題にあたってチームを組んだのが清華大学出身、学部を卒業したばかりのルー(ZHILE XIE)という学生だった。これが超絶に強烈かつ優秀なチームメートだった。ルーはもちろん建築学生だが、アートの分野に強いセンシティビティと興味がある。

自分の作品をどう見せるか、どう文章で説明するかということについての執念がものすごい。表題の写真もそうであるが、Instagramにも常に「普通でない」表現の写真を載せ続け、普段は小説を書くのが趣味だという。小説の内容は―ニューヨークに出稼ぎに来るもののそのコミュニティに馴染めず悩んでいた若者のもとにその生活を揺るがす人が現れる―といった感じで純文学のようだ。

アーティスト的な資質が強いので、好きなものと嫌いなものがはっきりしている。気に入らないものを目にした時の拒絶反応がとても強く、罵詈雑言を言いまくる。チームメイトとしては面倒くさい人間のように思えるが笑、その頭の良さと、プロジェクトへの思いと、間違ったことや正しいことについての意見には際立ったものがあり、共同作業はとても楽しかった。

今回LAの敷地で行ったデザインをどうプレゼンテーションするかという点についてもその才能は遺憾なく発揮された。LA出身アーティストの中で、Ed Ruschaというイラストレーターの作品を見つけ出し、そこにLAの普遍的な文化・イメージがシンプルかつストレートに表現されている点が、参考になるのではないかと考えたのだ。

その上で彼が作ったパースは、すぐにでもLA土産の絵葉書にできるような完成度がある。普通なら何も考えずにフォトリアリスティックなパースを作成して終わらせてしまうのだが、それは一つの思考停止とも言える。ルーは、自分の作品を発表する際に「終わらせるために無難なフォーマットにあてはめる」ということが大嫌いだ。川島は4年ぐらい企業勤めをした後にGSDに来たため、無難に素早く終わらせるのに慣れきってしまっていた。そのため無意識に無難な意見を言ってしまうことがあり、そんな時は「なんでそんなつまらないことするの?」と死ぬほど怒られた。

英語の文章の才能もかなりある。英語のプレゼンテーションでは、一言で相手を納得させるようなキャッチーなキーワードが重要だ。日本語では、シンプルな言葉を積み重ねているのに、いつの間にか面白い話をしているというのがかっこ良いのだが、英語ではそれでは伝わらない。川島はその日本語をそのまま英語に翻訳したような文章しか作れないため、英語での最終発表の原稿はルーが全て書き下ろした。

そんなこんなで、ルーは川島が持ってないものをかなり強力な形で持っているチームメイトだったので、そのおかげでプロジェクトがとても良くなったのだと思う。特にどう見せるか、どう語るかということへの執念、ものづくりの先にあるものへの執念が自分に足りなかったことを、ルート一緒にいたことで痛感した。無難なものに疑問を呈し、必死にそれを壊そうとする強い気持ちを、ルーのように持ち続けなければならない。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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