自然史博物館のようなオブジェ

デジタルファブリケーションの授業である、ハイブリッド・フォーメーションの最終課題では、縦0.4m×横1.2m×高さ0.4mのオブジェを3人チームで作ることが求められた。今までの学期の中で学んだ3dsmaxによるモデリング技術と、供給された3Dプリンターを使いながら、コンセプトやテーマは自分たちで設定して、「Novel Form:新しい形」を追求する課題だ。

最初はアートワークのリサーチから始めた。その中で興味を持ったのが(アートの基本なのかもしれないが)普段は当たり前のように見えているものの認識を変えてしまうものだ。その中で一番当たり前のように認識しているものは何かと考えた時、人間の体が一番そうなのではないか思った。

人間の体そのものの価値は、このデジタル社会においてどんどん存在感を失って来ている。人々が共有する殆どの情報はWEB上にあるものであり、写真だって動画だって現実とは違う形にいくらだって加工できてしまう。それに加え、加工された情報さえも大量にあるノイズのような情報の中に埋もれてしまっている状態だ。その状況を批評するようなものが作れないか。

そこで考えたのが、人間の体のパーツを展示する自然史博物館のようなオブジェだ。自然の中のような空間の中で彷徨ううちに、人間の体の本来の美しさに気付かされるようなものを目指した。有機的な空間の中にただ人間の体のパーツが展示されているだけでは面白くないので、鏡面の円柱に写り込んだ像によって初めて意味がわかるという、アナモリフィックアートを取り入れた造形にした。

何しろ作らなければいけないものが巨大だ。支給された3Dプリンターで生産できる最大サイズでものを区切ると、40以上のパーツをプリントしなければならない。一つのパーツに短いものは7時間、長いもので30時間もプリントがかかるので、それを全て提出までにプリント仕切るというプレッシャーが半端ではなかった。今回使ったフィラメント型の3Dプリンターは一番自由度が低く、故障が起きやすいものだったので、1日中プリントの面倒を見て終わってしまった日もあった。

ただ、3Dプリントしたものそのものはかなりチープに見えるので、プリントを終えた後は、色つけの作業に入った。チームメートのダンが個人的にエアブラシ用のコンプレッサーを持っているという強者だし、もう一人のチームメイトのアリアナがハーバードの学部の美術学科の4年生で塗料に精通していた。一回樹脂コーティングをして表面の凹凸を極力無くした後に、エアブラシでメタリックでグラデーションに塗装し、それからもう一回樹脂コーティングをして光沢を出すという作業を行った。

かなり気合を入れてやったおかげで、完成したオブジェは得にも言われぬ迫力を持ったものができてしまった。クロームのシリンダーに映り込む人体のパーツの存在感は最高に不安定で、上に書いたようなコンセプトそのものを狙い通り表現できた。

何より、その模型を見た通りすがりのほぼ全ての学生が「まじか!」「何だこれ!!」と叫んでくれるのが嬉しかった。何か一線を超えたものに対しては、周りの人は本当に素直に反応してくれるものだ。今回のプロジェクトはコンセプトが難解すぎるし、「これはすごいけど何の役に立つの?」とも言われがちなのが問題だ笑。ただ、チームメイトにこれまた恵まれたことで、一つの殻をやぶれたことを実感できたプロジェクトだった。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

0コメント

  • 1000 / 1000