共感の美学:ストーリーを活かすアメリカ社会

前回に引き続き、共感の美学を貫くアメリカ社会について書きたい。ストーリーを活かすのがうまいという性格が良い方向に転ぶと、とても素晴らしいものにつながる例だ。

自分が子供のころからある番組として日本にはSASUKEがある。TBSの筋肉番付という番組から派生した、体力と筋力とバランス、運動神経に自信がある人たちが、アスレチックの超難しい版のような障害を次々にクリアしながらゴールを目指すものである。

この番組の人気は日本では下火になってしまったのだが、アメリカにほぼ同じ内容で輸入された「American Ninja Warriors」という番組があり今でも超人気だ。アメリカの番組は基本的にシーズン制なので、1シーズンで10回ぐらいの放送に番組が分かれている。そのため、日本のSASUKEのように一発勝負で全てが決まるわけではない。

まずアメリカも広いので、全米の各地の猛者が集めるために、各地での予選会や地区決勝が行われる。予選で1回ミスして転落してしまっても、ある程度の位置まで進んでいれば地区決勝には出場できる。そういう流れでラスベガスでのファイナルに進む選手が決まり、最終的には日本と同じように一発勝負の舞台へと移行する。

SASUKEにもAmerican Ninja Warriorsにも共通するのは、その障害物を突破できるのは超人的な筋力と運動神経の持ち主であり、自ずと固定メンバーというかスター選手みたいな人たちが生まれるという点である。

日本の場合もそのスター選手たちはめちゃめちゃすごいのだが、「人生SASUKE」というようなスローガンの選手がいるように、若干変人扱いのような形になってしまうし、本人たちも競技を突破することだけが目標で、それ以上のことは求めていないように見える。

アメリカの場合は違う。まず、アメリカの番組では出演者がどういう人たちかということがとても重要で、出場者のキャラクター付けとその説明がしっかりしている。60歳手前で予選を突破する人がいれば、昆虫食で質の良いプロテインをとっているとアピールする人もいて、2人の子供がいる40超えのお母さんが予選で女性最高の成績を収めたりとか、難病を抱える人も出場することもある。

その人たちに共通するのは、「あるコミュニティ・属性を代表する自分が頑張って成功する姿を見せることで、そのコミュニティ全体を元気づけること」を重要視する点である。難病をかかえる人であれば、同じ病気を抱える人に、その病気を抱えていてもこれだけのことができるという可能性を見せる。闘病している家族に自分が頑張る姿を見せることで勇気づける。バラエティとしてだけでなく、そういう「コミュニティ・エンパワーメント」を発信するプラットフォームとして番組が存在している。

また、American Ninja Warriorsに出るスター選手の多くは、その障害物を模擬したアスレチックで体を鍛えるニンジャ・ジムを地元で経営している。そこには、番組を見て障害物にトライしたくなった人たちや、選手に憧れて将来の出場を夢見る子供たちが通う。つまり、テレビ番組の存在・影響力によって全米各地の健康増進コミュニティが育成されているということだ。

片や年に1、2度のスペシャル番組で選手は変人扱い、片や年に1シーズンの番組として全米に社会貢献してしまうあり方は、日本とアメリカの文化の違い、そしてアメリカのコンテンツのストーリーを活かすうまさが見て取れる。

このようなストーリーの活かし方というものを体に染み込ませたいと思う。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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