シェイプ・オブ・ウォーター

先日に日本に帰国した際、飛行機の中で2018年のアカデミー賞で作品賞・監督賞・美術賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督のシェイプ・オブ・ウォーターを見た。デル・トロ作品は今まで見たことがなかったのだが、監督自身のドローイング(https://gigazine.net/news/20130816-guillermo-del-toro-sketchbook/)がとにかく有名なので期待していた。

結果としては映画が始まって開始10分ぐらいで、デル・トロ監督の空間・映像そしてディテールのセンスに圧倒されてしまった。自分は別に映画を作っている人間でもないので、こんな事を考えるだけで奇妙なのだが、この人に一生勝てることはないのだなと感じてしまった。

最近はディテールの話ばっかしている感じがするが、映画のセットの作り込みがとにかくすごい。映画の舞台となる場所が限られているので可能なことかもしれない。研究所の水槽のある部屋の配管の形状、主人公の家に置いてある小物の数々、家の廊下の腰高の巾木や壁紙、各場面での光の入り方、煙の出方などどなどから、目が離せないほど引き込まれる。

これらの想像力の源泉は何なのかと考えてみる。デル・トロ監督の個人の才能と言ってしまえば話はおしまいだし、大部分はそれだとも思う。ただ先日、宮崎駿のドキュメンタリーを見ていた時に、ずっと心に残っている言葉があった。

そのドキュメンタリーでは、IT企業の社長がAI技術を応用したアニメーションの作り方を、宮崎駿にプレゼンする場面が取り上げられた。プレゼに対して宮崎駿から「生命に対する侮辱を感じる」という厳しい批判の言葉が出るのだが、その後にカメラに向かって宮崎駿がつぶやいた。

「今の時代は人間の方がどんどん自信を失ってきているんだな」

そう言われてみればその通りである。機能的なものだけで余計なものを排除したモダニズムのデザインも逆に言えばその自信のなさの表れなのかもしれない。自分が興味を持って進めている環境シミュレーションをベースにしたデザインだって、形を決めるのが怖いから自然の原則に決めてもらおうとする消極的な態度の表れとも言える。

白い空間のキャンパスに手を加える自信がないから何もしない、無難に済ませる、では話にならないのだ。一方で、デル・トロ監督の画面作りには自信が隅々まで漲っているのを感じる。

その自信を獲得するにはどうすればよいのか。作品作りの際に、本当に自信をもって線を引いているのか、自信がないのならば何が足りないのか、を常に問いかけるところから始めてみよう。そうしながら愚直に作り続け、自信を獲得していくのが筋だ。何よりも、手を動かし続け、作り続ける他にない。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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