今学期はマイアミが敷地である、都市デザイン+建築+ランドスケープの学生が対象のスタジオを選択している。近年のGSDは南米、アフリカ、アジアなどの発展途上国を対象としたテーマが多かったのだが、今年からナイト財団からのサポートを受け、アメリカの都市をどう変えていけるかというテーマにも、新たにフォーカスするようになった。
大統領選を通じて日本でも頻繁に報道されるアメリカの分断や、重工業で栄えた都市の衰退、テック企業の躍進による極端な富裕化や、特定の富裕層のために投資が集中する都市など、デザインにより解決しなければない課題は大量にあり、学長であるモーセン・モスタファビの肝いりのスタジオでもある。
マイアミのスタジオはそんな「アメリカン・シティ」シリーズのうちの一つでもある。マイアミは昔から、観光に対する需要を呼び起こすことで人気のリゾート地になった場所だ。特に、経済や政治の中心であるアメリカの北東部の冬は厳しく、富裕層が冬の寒さを避けるべく別荘を構えるのが流行っている。その特異なビーチカルチャーはアメリカのみならず世界中の富裕層までも惹きつける。冬に滞在する用のホテルやマンションの開発が盛んで、サンクスギビング以降の冬のバケーションの期間は、他の季節に比べて人口が数倍も違うと言われている。
当然、富裕層向けの投資がそれだける流れ込む都市では、取り残される中間層、貧困層の人々もいる。スタジオの敷地となったのは、オーバータウンと呼ばれる、元は黒人居住地区があった場所で、マイアミで最貧困の地域のうちの一つだ。ダウンタウンからの近さや公共交通とのアクセスの良さから、周辺での開発のプレッシャーが日に日に高まる場所でもある。そこに、富裕層向けの商業地区や住宅などとは違う、多くの層が関わり共存のできるデザインをできないか、というのがスタジオのテーマである。
スタジオはリサーチ課題から始まり、自分がクラスメイトのCharlieと担当したのはHydrology"水系"の分析である。マイアミは海面上昇により水没する地域が多いと言われていて、そのマップを作ることから始めた。結果としては、海岸付近よりも内陸の方が洪水リスクが高いという特異な地域であることが明らかになった。
そもそも、マイアミのあるフロリダ半島というのは、その殆どが石灰岩の多孔質の土を持つ湿地帯で、その東の端にある小高い丘の部分から都市が作られ始めた歴史がある。湿地帯に運河を導入して排水系を操作することによって、乾燥した土地を作り都市を拡大してきた。そのため、海面上昇の影響を極端に受けやすい、とても不安定な土地でもある。実は、オーバータウンはマイアミの中では洪水リスクが一番低いエリアのうちの一つで、そのような土地に開発のプレッシャーがかかるのは必須なのである。
スタジオでは他のチームも別のテーマでリサーチを行い、その結果を総覧することで、オーバータウンがマイアミの中で相対的にどういう位置づけなのかがわかってきた。マイアミの"複数の顔"が重なり合う中に、最終の設計のデザインを位置づけなければならない。
色んな学科の色んな学生が集まり、一つのことに集中して思考するGSDならではのスタジオなのだと思う。人生最後のスタジオになる可能性が高いので、何としてもトップの成績を取りたいとも思った。
0コメント