都市の歩行者活動の定量化

今学期はApplied Urban Analyticsという都市デザインのデータサイエンスがテーマの授業を取っている。担当の先生はGSDの教授であるアンドレス・セブチェスク(Andres Sevtsuk)で、都市の中での歩行者の交通量などを計算できるRhinoプラグインツールUNA Toolboxの開発者でもある。優秀過ぎて、まだ30代なのにGSDの教授職なのである。

ボストンのMIT、Harvard周辺で勉強していると、本当に世界各地から才能が集まる場所なのだということをひしひしと感じる。若くして、世界規模で影響力のあるツールを開発したり、天才的とも言える業績を挙げていたりする人がゴロゴロいる。もちろん有名でなくても「何でこの人こんなに優秀なの?」と思ってしまうようなクラスメイトもたくさんいる。

都市デザインの"良さ"の定量化というのは、先学期の授業を終えてから強く興味のある分野であった。先学期のスタジオのプロジェクトに対するクリティークの中でも「デザインの良さを定量化できたりしないかな?」という話はあった。

デザインの良さを定量化するというのは、普通に考えて難しい話だ。美的センスというものは人の主観に大きく依存するものであるし、建築の分野に長いこといても、そういう「美」の定量化の話はあまり聞いたことがない。

ただ、都市計画に関しては「美」以外の点において良し悪しを評価できる点は多い。渋滞が深刻な都市や、歩行者の少ない都市は、そのデザイン(計画)にどこか問題点があるのだろう。

Applied Urban Analyticsの授業で最初の課題として行ったのは、都市の中での歩行者量の予測だ。歩行者量を数値的にモデリングして、それを実測結果と比べることでキャリブレーションし、現実に近い歩行者量を予測できるモデルを作るのだ。

具体的な手順としては(もちろんこれが完璧というわけではないが)、まず住居から地下鉄、オフィスからレストランなど、都市の中で日常行われる歩行による移動を個別に計算する。都市の歩行者量はそれぞれの要素の重ね合わせだと仮定して、実測値に対してそれぞれの要素が何%ずつ相関性があるのか計算し、数値モデルを最適化するというものだ。

歩行者予測ができる数値モデルがあると何ができるのか。例えば、どこが歩行者が多くてレストランや店舗を出しやすい場所かがわかる。画像にあるのは、再開発が進むMIT周辺地区で、現在進む計画が竣工したらどこが歩行者が増えるのかを示したものである。このように、新しい地下鉄の駅ができたら、新しい再開発のビルができたら、どのように歩行者のパターンが変わるのかを予測することで、それに対する歩行者空間拡幅のデザインアイディアや、公共空間のデザインを考えるきっかけができるのだ。

この分野はもちろん昔から都市計画の実務の中で専門家の手で行われていた内容なのだが、それがRhinoで比較的簡単にできるようになったことで、より多くのデザイナーが都市のデザインの定量化と、それに基づいたデザインに関われるようになったことは大きい。

やはり"定量化"という概念はかなりパワフルだ。単純な指標でも数字が一つあるだけで、デザインのアイディアが無限に広がっていく。このような武器を在学中にもっと身につけていかなければならない。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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