バイネッキ貴重書・手稿図書館

イエール大学の建築群の中でも度肝を抜かれたのが、SOMのゴードン・バンシャフトによって設計されたバイネッキ貴重書・手稿図書館である。建物の四方全面が、プレキャストコンクリート枠に嵌め込まれた、32mmにスライスされた大理石のカーテンウォールという、世界に類を見ない建築だ。

建物の外観はその特徴的なカーテンウォールで囲まれた、立方体の石の固まりのようになっている。日本だと建築主から「台風が来てものが飛んできて石が割れたらどうするんですか?」と言われて却下されそうな、とても壊れやすいファサードだ。目立たないように最小限の高さに抑えられた1階から、建物の中には入ることができる。

中に入ると目に入るのは、大理石を透けて入ってくる自然光に囲まれた荘厳な空間だ。自然石ならではの模様や色の光に満ち満ちた空間は、まるでステンドグラスに囲まれた聖堂のような雰囲気さえある。

大空間の中心には入れ子状に挿入された巨大なガラスボックスがあり、その中に貴重書・手稿が温湿度管理された状態で保存されている。荘厳な空間の中にあるガラスボックスという、これ以上ない演出によって、それらのものがどれだけ貴重かということを感じさせられる。

図書館の中の貴重書のアーカイブというのは、ある程度の規模の図書館であればどこにでもあるものだが、この建物のように美術館のような形で展示・陳列している例は他にないだろう。書物から放たれるオーラのようなものが建物内の空気を形作っていて、誰もがその中で特別な時間を過ごせるようになっている。

また、この建築の面白いところは、地球上のどの場所でも成立する構成なところである。インテリアのプロダクトのように、どこに建とうとその素晴らしさは変わらない。この究極にコンテクストレスなところが、ゼロの大地から都市を作り上げたアメリカならではのものであり、そこに普遍的な魅力を感じる。

ゴードン・バンシャフトは今や世界最大の組織建築設計事務所であるSOM所属の建築家なのだが、その建物からはその時代の他の誰にも負けないパワーが放たれいるのを感じる。天才というのはその立場に関係なく、強い光を放つことのできるのだろう。

GSD World - ハーバード大学建築・都市デザイン留学記

建築と都市デザインをハーバード大学デザイン大学院(GSD)で勉強する川島宏起のブログです。

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